本論は,臨床心理面接を造形要素の一つである「面」の隠喩として捉え直す試みである。はじめに抽象画家のカンディンスキーによる「面」の定義を因数分解したところ「枠」と「(図に対する)地」という下位要素が抽出された。これらの要素を詳細に検討したところ「枠」の心的イメージが喚起されると「内面」という深層にある「面」への到達が促されること,加えて臨床心理面接における専門的会話は意識に上りやすい「図」の外側の領域である「地」にも焦点を当てていることが例証された。カンディンスキーの理論にギブソン理論を接続させた建築家の隈(2020)は,「点・線・面の肌理」という概念を提唱しているが,とりわけ水平面の肌理が生物の生存にとって欠かせない要素であることを指摘している。この知見を基に垂直的セラピーと水平的セラピーの違いが考察された。表層から深層へと向かう垂直的セラピーでは水平面の肌理の重要度は相対的に低く,定点に留まり面接室が居場所として機能することに意義があることが示された。一方,表層の水平移動のイメージを主とする水平的セラピーでは,水平面の肌理である「粒子」の知覚が重視されるため,粒子の拡大・縮小の促進が有用な支援法の一つであることが示唆された。