本研究は,ソリューション・フォーカスト・アプローチの一技法であるスケーリング・クエスチョンの治療機序を解明すべく,既出の仮想事例を再考察したものである。先行研究では「数による査定」「言語による行動拘束」という治療機序が指摘されているが,本研究ではスケーリングの「スケール」の側面および「スケール」から数値を捨象した「点」「線」という構成要素との関係から検討する。方法はスケーリング・クエスチョンが用いられている二事例の面接過程の一部を抽出し,心理臨床および点と線のデザインの観点から考察を加える。点と線に関する考察は抽象絵画の提唱者であるヴァシリー・カンディンスキーの絵画理論に依拠している。事例の考察では,スケーリング・クエスチョンは,例外の探索というプロセスに先んじて,点と線との関係をめぐる対話からクライエントの「再定位」がもたらされることが示唆された。この「再定位」の感覚はソリューション・フォーカスト・アプローチの一技法に留まらず,心理臨床全般における普遍的な要素であることが示された。