寛容は加害者に対する順社会的変化と定義され、建設的葛藤解決における重要な心理学的条件である。しかし、被害者は、寛容には被害を再発させてしまうリスクがあると認識するため、加害者を許したがらない。本研究では、被害者が加害者に寛容を示したとき、加害者が被害反復意図を低下させるのかどうか、寛容意図の種別を利他的意図と利己的意図に分けて検討した。シナリオ調査を行い、被害者の寛容の有無と寛容意図を操作した後、被害者に対する評価、被害反復意図、補償意図を測定した。分析の結果、被害者が利他的意図にもとづいて加害者に寛容を示すと、加害者は被害者に対する評価を高め、被害行為を反復する意図を低下させ、被害者への補償の意図を高めた。こうした結果は、葛藤状況のような不確実性が高い状況において、お互いの利益が搾取されないという信頼感を高めることができれば、寛容を示しても被害は反復されないことを示している。これまでの知見にもとづいて、罪悪感が低い場合でも本研究の知見が適用可能かどうかについても議論した。
pp.161-172.