本研究は、ベトナム戦争における枯れ葉剤(Agent Orange)被害者およびその家族の生活実態を明らかにし、適切な支援のあり方を検討することを目的として実施したものである。枯れ葉剤は1961年から1971年にかけて大量に散布され、市民450万人、兵士100万人が被曝したと推計されている。被害は今日も続き、多様な先天性障害や慢性疾患が世代を超えて発現している。本研究では、北部・中部・南部の計6地域において、被害者本人・第2世代・第3世代を対象とした半構造化インタビューと生活実態調査を実施した。分析の結果、障害率の高さに加え、世帯所得の低さや扶助制度の地域差が明らかになった。とくに、北部では帰還兵として被害認定が比較的明確である一方、中南部では兵士・民間人を問わず被曝しており、認定の不明確さが支援格差につながっている。多くの家族は医療費負担や将来への不安を抱えており、介護や生計維持の多くを女性が担うというジェンダー負担の偏りも確認された。以上の研究結果より、手当額格差の是正・増額、巡回診療の充実など医療アクセス改善、家族介護者への支援などの政策的対応が求められることを示した。(493字)