伊勢物語の作者について引き続き研究を進めていくが、歌物語の興隆と衰退という大きな文学史的潮流についても考察を深めていきたい。歌物語というジャンルは10世紀から11世紀までの僅か百年ほどの期間に発生し、消滅していった。歌物語を生み出していく大きな原動力は屏風絵歌や歌会、歌枕の流布であり、且つそれらを題材にして風流を尽くす歌語りの場にあった。こうした歌語り醸成の機運は、帝という一個人の趣向、あるいは有力な権門家に支えられて維持されていたものなのであろうか。文学的潮流と個人との連鎖を歌物語の盛衰の中で捉えなおしていくことを課題とすることで、自ずから伊勢物語の作者の問題も浮かび上がってこようと思われる。