芹沢長介先生が1953年、矢出川遺跡で細石刃石器群を(細石刃文化)発見してから、日本列島の北海道から九州まで出土している。さらに細石刃石器群は、アフリカの中期石器時代に源を発するが、東ユーラシアや北アメリカばかりでなく、中東や西ヨーロッパでも確認されている(Kajiwara 2008)。ヨーロッパでは古典的な分類によりエンドスクレイパーや彫刻刀とされていた石器やそのスポール、剥片などについて細石核と細石刃であるとの分類定義の一新する研究が2000年代前後に行われた(例えば一連のLe Brun-Ricalens et al.のモノグラフ、論文参照)。近年ヨーロつパテムステリアンに現生人類により細石刃が持ち込まれていたとの報告が発表され(Slimak etal.,2022)、ユーラシア大陸への細石刃文化の起源、広がりについて新たな説明が必要となっている。ユーラシアでの細石刃文化の様相について、細石核の作り方をもとに分類しまとめた(図13,Fig.13)。細石刃石器群の製作、使用、廃棄について石材環境、移動頻度やシステム、石器製作技術、自然環境などの人間を取り巻くさまざまな要素に基づいて、極めて合理的に選択、適用された知識体系であることを論じた(図14)。また、アフリカ中期石器時代の接着剤の発見やラスコー出土の細石刃に接着剤が付着した資料をもとに、組み合わせ道具としての細石刃は、溝にはめ込む前に、柄に接着剤を使って柄に貼り付ける段階があるという新たな仮説を発表し(図16)、最後にシカの中足骨を用いた柄の製作は縄文の方法と共通することを明らかにした(図17)。